あなたの She は失礼です:英語のマナー

オーストラリア人宅での出来事。ある幼児が著者の妻の目の前で “She is…”と言ったとたん、母親から「失礼よ」と注意されました。「ちゃんと名前で呼びなさい。ノリコってね」とのこと。

本人の前できちんとファーストネームで呼びあう礼儀をあまり意識せず、“She/he” などと言ってしまい外国人に不快な思いをさせるのは残念です。

英語世界でのファーストネーム主義は徹底しています。本来同じ単語の繰り返しを避ける習慣のある英語においてもファーストネームの繰り返しは問題がないわけです。20世紀世紀中盤のアメリカが起源とされるファーストネーム主義はイギリスやオーストラリアでも定着しています。

ファーストネームで人を呼ぶマナー。なぜ日本の英語教育でしっかりと教えないのか不思議です。英語の教科書を見ると日本文化の紹介などやたらテーマは盛りだくさんですが、基本、すなわち外国人とのコミュニケーション方法は軽視されています。

欧米人の会話には言語だけでなく、顔の表情やしぐさなど、いわゆるボディランゲージが重要な要素となります。海外生活をするとこれを痛感します。マスクをする人がいないのも、顔の表情プラス言葉で会話をするのが基本だからです。

ちなみにこのような欧米の習慣を逆手に取ったのが、ジョン・レノンの元妻だったオノ・ヨーコ氏。ユーチューブの「イマジン」の画像を見て分かるように、無表情を貫いています。昔とても不思議に思っていた無表情。英国赴任で謎が解けました。異常な無表情を演じることで自己アピールを図っていたわけです。欧米人の習慣・マナーに精通していたからこその作戦です。

欧米人の習慣・マナーといえば、アングロサクソン系とラテン系で大きく違う部分があります。前者が規律重視、後者は人間性重視です。

たとえば、英国の場合、スーパーのレジ等で列を作ることに関しては非常に真剣です。絶対に割り込みは許さないという目つきで並びます。

一方、フランスでは中年の女性が「急いでるからいいでしょ」といって平気で割り込んできます。店員もあきれた顔にはなるが、あとはお客さん同士の問題という態度。

アングロサクソン系とラテン系で対照的だったのが、スペイン領カナリア諸島のあるホテルのレストランでの出来事。

スタッフが大きな皿を大量にのせたトレーを運んで入ってくる。突然床につまずき皿が飛び散り大音響。その瞬間、大喝采。大騒ぎ。皆お祭り騒ぎとなる。ラテン気質に接して驚愕しました。毎日楽しむために生きている人たちという感じでした。

同じ事件が英国のホテルレストランで起きたらどうでしょう?まあ、皆一瞬息は飲むが、大音響は聞こえなかったかのように静かな食事を続けるでしょう。淡々と。

では、アングロサクソン系に人間性がとぼしくつまらないかというと、決してそんなことはなく、仲良くなればまた別の形で人間性を見せてきます。

一度だけ、心から「この人英国人でよかった」と思った経験があります。ホリデーも終わり、セイシェル空港から飛び立つ直前の航空機内。「機内の一部で温度上昇が確認されており、ただ今点検中との」のアナウンス。結局センサー誤作動が原因で問題はなし。その間の機長のゆっくり落ち着いた機内アナウンス。軽くジョークも挟む余裕。思わず唸った。「これぞアングロサクソンの神髄か」と。